歴史

「ボディワーク」という言葉の起源と意味を考察する

「ボディワーク」という言葉は、ニューエイジ思想といっしょに日本に入ってきて、1990年前後から、少しづつ広く使われるようになった言葉です。

南山短期大学人間関係学科教授のグラヴァ俊子さんが、現代のエスプリ283 ニューセラピー(至文堂 1991年)に「ボディワークーからだを通しての自己成長ー」という論文を書かれていますが、この論文がおそらく、ボディワークという言葉が、日本ではじめて、きちんと論評された最初の原稿であったと推測されます。その中で、1960年代からエサレン研究所(カリフォルニア州)で、フリッツ・パールズ博士からゲシュタルト療法を、アイダ・ロルフ博士からロルフィングを学んだマーク・カフェル博士が、「ボディワークとは、ニューエイジの用語で人間を心とからだとスピリチュアルな全体として捉え、その全体性へ向かって成長を援助するホリスティックな概念だ。」と述べています。

当会顧問の鎌田麻莉さんは、1990年ごろのエサレン研究所では、ボディワークという言葉は、理論学習に対して、実際に体験して学ぶ意味合いで使われることも多く、からだの感覚を開いていくようなワークや、内面の感覚に焦点を当てていくようなワーク全てに使われており、当時もさまざまな身体技法が試みられそれらをすべて総称して、「ボディワーク」と呼んでいるようでした、と語っています。「日常のあらゆる場面で、「身体の内側の感覚に耳を傾ける」ことを「ボディワークしてる?」と言うような表現をして、いわば、一種の流行語のような感じでみんなで使いまくってワクワクしてたって感じですね。」

ここで語られている「エサレン研究所」は、アメリカ合衆国・カリフォルニア州のビッグ・サー村にあり、1962年に設立された世界で始めてのグロウスセンターで、ヒューマニスティック心理学が、ヒューマンポテンシャル運動(意識変革の運動)へと展開していく中心的存在といえる場所です。1967年になるとヒッピー文化と呼ばれる一連の文化運動がカリフォルニアに生まれますが、サンフランシスコのヘイトアシュベリーがひとつの震源地であったとすれば、もうひとつの震源地として、エサレン研究所はあげられるべきでしょう。(グロウスセンターとは、自己探求や自己成長のためのプログラムを提供する宿泊を伴った教育研修センターで、60年代後半にアメリカの都市に広まりました。)

「ボディワーク」とは、このような文脈の中で使われるようになった言葉であり、1970年代のヒッピー文化の日本での流行の時期からずいぶんと遅れて、、90年代に入ってからニューエイジ思想の広まりとともに、概念が広まっていったようです。

現在では、ボディワークとは、色々なワークやセラピー、療法のうち、主に身体から働きかける技法の総称として使われているようです。身体へのダイレクトなアプローチを通じて、心身の速やかな変容をもたらすという点が注目されています。従来の体操やマッサージと異なるのは、「気づき・意識」を重視する点でしょう。中でも、アロマテラピートリートメントやリフレクソロジーは広く一般に認知されるようになりました。また、最近のボディワークの傾向として、心と身体を包み込む生体エネルギーの領域までアプローチするようになっています。

「エサレンスタイル」から「心で触れるボディワーク」へ

設立当初のエサレン研究所では、温泉の露天風呂の横のデッキでスエディッシュマッサージ(ヨーロッパで広まったオイルトリートメントの一種)が行われていました。それに、当時中心的プログラムとして行われていた太極拳、センサリーアウエアネス、ゲシュタルト療法の要素が次第に取り入れられて「からだの再発見・感覚をひらく」ことを重視した、ロングストロークと呼ばれるストロークを用いる独特のスタイルに変化していきます。

さらに60年代後半になるとアイダ・ロルフ博士が、エサレン研究所を定期的に訪れるようになったことがきっかけで、ロルフィングと呼ばれる博士の身体構造統合法の考え方が加えられていきます。

1970年代に入ると、さらに様々な身体技法を学び取り入れましたが、その中でミルトン・トレガー博士のトレガーワークは重要な要素となりました(揺らしの技法)。

このように、エサレン研究所で行われるようになった独特のスタイルのオイルトリートメントが、「心で触れるボディワーク」のルーツです。

1999年には、編カンパニーが日本で始めてのエサレンスタイルのオイルトリートメントのプロフェッショルトレーニングを行いました。当時は、エサレンマッサージ資格認定コースと名づけていましたが、先に示したエサレン研究所の歴史的経緯を尊重し「ボディワーク」の概念を取り入れていく意図から、また日本の法令遵守の精神から、2001年からエサレンボディワーク資格認定コースと名称を変更し、卒業生の方々にも、エサレンボディワーク認定プラクティショナーと名乗るようにお願いする形で、2007年まで12回に渡るトレーニングを行っています。2008年からは、当会顧問の鎌田麻莉さんが、心で触れるボディワークスクールを開校し、エサレンボディワークのスピリットとスタイルを「心で触れるボディワーク」として伝えています。

日本のオイルトリートメントの歴史は、欧米に比べるとまだ浅く、高度経済成長期以降、エスティティック分野での痩身を目的としたトリートメントやインド伝承医学としての施術は行われてきたようですが、2000年を過ぎてからようやく、アロマセラピーの広がりとともにリラクセーションのためのオイルトリートメントが一般的に受け入れられ始めました。

「心で触れるボディワーク」は、リラクセーションのためのオイルトリートメントに、技術的・倫理的・精神的背景を与えるものといえます。

参考:
癒しと気づきのセラピー&カウンセリング POTAL SITE FiLi
http://www.fili.co.jp/body/

文献:
現代のエスプリ283 ニューセラピー(至文堂 1991年)
エスリンとアメリカの覚醒、W.T.アンダーソン著、伊藤博訳(誠信書房 1998年)